第231回 ヒマワリ学生運動と言論の自由

2014年3月に当時学生だったメンバーが中心となり、立法院が中台間のサービス貿易協定を承認するのを阻止するために立法院を占拠した、いわゆるヒマワリ学生運動(中国語「太陽花学運」)に関する裁判の控訴審判決が18年3月13日に下された。

当該裁判では、同運動を率いた22人の被告人らが刑法第153条の他人の犯罪を扇動した罪などに問われていたが(検察官は、立法院の占領行為自体ではなく、群衆への呼び掛けなど「言論」部分のみを対象に起訴していた)、台湾高等裁判所は、被告人らを無罪とした一審判決を維持し、控訴を棄却した。

言論の自由の保障範囲

中華民国憲法第11条では、「人民は言論、研究、著作および出版の自由を有する」と規定され、国民には言論の自由が保障されている。

しかし、この言論の自由は、いかなる制限も受けないわけではなく、釈字第445号大法官解釈の趣旨によると、言論の価値の高低および保護密度を区別し、言論のなされた時間、場所、方法を考慮して異なる程度の審査をし、個別案件の一切の情状を考慮して、その言論の背後で保護される利益およびその侵害される利益を実質的に権衡しなければならない。

控訴審判決の概要

立法院への進入を群衆に呼び掛けた行為について、他人の犯罪を扇動した罪の成否に関する控訴審判決の概要は以下の通りである。

1.言論の価値の高さ

被告人らは、立法院が民意を表すことができないと考え、立法院がずさんに中台サービス貿易協定を承認するのを阻止するという目的を達成するため、立法院を占領する方法で抗議を行ったのであり、これは政治的言論である。

そして、サービス貿易協定が影響する業種および階層は極めて広く、調印の影響は深遠で、個人の経済、社会生活と密接に関連し、国家の未来の政治、経済発展に大きく関係するものである。前述の動機と目的は公衆の事務と重大な関連があると認めるに足り、価値の高い言論である。

2.言論の時間、場所、方法

立法委員の行為は、事実上、中台サービス貿易協定が立法院の逐条かつ実質的な審査を経ず効力を生じさせるもので、かつ、実際上、期待できる合法で有効な救済がなく、他の代替手段がないと認められる。

そして、まもなく立法院で軽率迅速にサービス貿易協定の承認が表決される可能性が高かったことから、被告人らが、群衆に呼び掛け、立法院に進入して立法院を占領するという方法で中台サービス貿易協定がずさんに承認されるのを阻止したのは、まさに最後の必要な手段であった。

3.利益の権衡

被告人らが立法院の議場を占領した行為は、立法院の議事に支障をもたらしたが、そのような損害は、立法院が改めて中台サービス貿易協定を実質的に審査するのを求めるという目的がもたらす利益より明らかに小さい。

以上のような点を考慮し、被告人らの言論(群衆への呼び掛け行為)は、憲法第11条の言論の自由の保護範囲にあり、実質的違法性を欠いているため、他人の犯罪を煽動した罪は成立しないと判断した。

なお、被告人らはその他、集会行進法違反、公務執行妨害罪などにも問われていたものの、結論として全て無罪とされている。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

弁護士 福田 優二

大学時代に旅行で訪れて以来、台湾に興味を持ち、台湾に関連する仕事を希望するに至る。 司法修習修了後、高雄市にて短期語学留学。2017年5月より台湾に駐在。 クライアントに最良のリーガルサービスを提供するため、台湾法および台湾ビジネスに熟練すべく日々研鑽を積んでいる。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。