第247回 インターネットで他人を罵倒した場合の法的責任

2017年7月、あるオンラインゲームのチャットルームで、ユーザーネーム「YOLO#41267」を使用する徐氏が、ユーザーネーム「JOBA」の蕭氏と言い争いとなりました。「YOLO#41267」が「JOBA」を役立たずでくずだと罵倒(2人はネット上のみの知り合いで、実社会では面識がない)したため、蕭氏は「YOLO#41267」を相手に刑事告訴を提起。屏東地方検察署の検察官がIPアドレスから「YOLO#41267」の徐氏本人の氏名を突き止め、刑法第309条第1項の公然侮辱罪(不特定多数の人が見聞きできる状況で他人を侮辱した場合、拘留または300台湾元以下の罰金に処する)で起訴しました。

第一審の裁判所は、公然侮辱罪は成立すると判断しました。匿名または偽名のユーザーネームによりインターネット上で他者と交流することは、実社会での交流と違いはなく、匿名または偽名であってもその名誉権は法的保護を受けるべきとしました。また、徐被告は原告を2回罵倒したため、2件の公然侮辱罪が成立すると認定し、それぞれ10日間の拘留に処し、併合後の刑期は15日間、罰金で代替できる旨の判決を下しました。

全く異なる判決

徐被告はこれを不服として控訴。すると第二審の裁判所は、18年7月に徐被告に対し無罪の逆転判決を下した。主な理由として、公然侮辱罪の対象は法人および自然人に限られ、「JOBA」はインターネット上のユーザーネームであって、人格主体を有する自然人ではなく、まして他のゲーマーは「YOLO#41267」が「JOBA」を侮辱したことを知っていても、「JOBA」が蕭氏であることは知らない、すなわち、蕭氏という人物の人格または名誉権は侵害されていないため、刑法の公然侮辱罪は成立しないと指摘しました。

本件は極めて小さな、奇妙な刑事事件ですが、インターネット上の匿名者の名誉権に対し、第一審、第二審の裁判所がそれぞれ完全に異なる認定を行ったため、インターネット上で大きな議論を巻き起こしました。原告の蕭氏は二審判決を不服として上告を提起したとされており、今後、最高裁判所によって最終的な判決が下されることになります。


*本記事は、台湾ビジネス法務実務に関する一般的な情報を提供するものであり、専門的な法的助言を提供するものではありません。また、実際の法律の適用およびその影響については、特定の事実関係によって大きく異なる可能性があります。台湾ビジネス法務実務に関する具体的な法律問題についての法的助言をご希望される方は当事務所にご相談下さい。

執筆者紹介

台湾弁護士 蘇 逸修

国立台湾大学法律学科、同大学院修士課程法律学科を卒業後、台湾法務部調査局へ入局。数年間にわたり、尾行、捜索などの危険な犯罪調査の任務を経て台湾の 板橋地方検察庁において検察官の職を務める。犯罪調査課、法廷訴訟課、刑事執行課などで検事としての業務経験を積む。専門知識の提供だけではなく、情熱や サービス精神を備え顧客の立場になって考えることのできる弁護士を目指している。

本記事は、ワイズコンサルティング(威志企管顧問(股)公司)のWEBページ向けに寄稿した連載記事です。